MISSING PARTS OUTSIDE  第2話


    Prologue


「―― お世話になりました」
 ナースステーションで恭介が頭を下げると、居並ぶナース達が次々に声をかけた。
「退院おめでとう」
「良かったわねー。今度は無茶しちゃ駄目よ」
「は、はい・・・」
 隣では哲平が勝手に若手のナース達と別れを惜しんでいる。
「せっかく仲良くなったのに残念やなー。智子ちゃんも多恵ちゃんも元気でなぁ」
「何しに来てんだよ、お前は・・・」
 その様子を見て呆れていると、担当だった女性医師の有沢が話しかけてきた。
「探偵くん、検診日忘れないでね。それより前でも具合が悪かったら、遠慮なく来るのよ?」
「あ、はい。ありがとうございます」
 彼女は眼鏡の位置を指先で直し、溜息をついてみせた。
「・・・ あーあ、これでまた当分若い男の子の身体に触れなくなっちゃうのよねぇ。しばらくは
 お年寄りの相手ばっかりかぁ」
 慣れているナース達は「先生ったらまたぁ」と笑っていたが、慣れていない哲平と、何度
聞かされても慣れない恭介は一瞬固まってしまった。
 哲平が小声で恐る恐る尋ねてくる。
「・・・ なぁ恭ちゃん、このセンセって・・・」
「聞くな」
 恭介はきっぱり一言でその先を封じた。
 この病院は患者のほとんどが高齢で、老人病院というか「ご近所の寄り合い所」と化して
いるところがあって、彼のような年齢の入院患者は珍しがられた。それで、ずっとこの調子で
からかわれていたのだ。
「―― それじゃ、上司が外で待ってますので失礼します」
「はーい。美人の所長代理さんにもよろしくねー」
 もう一度会釈して、二人はその場を後にした。

 階段を降りながら、哲平が大げさに息をついた。
「あのセンセ、実はあんな人やったんかー。あの人て『メガネ取ったら超美人』の典型やん?
 けどなーんかこう、『ニッコリ笑ってバッサリ斬る』みたいな感じしてん、怖くて今まで
 近寄らんかったんやけど、それがなぁ」
「―― 普段はそうなんだけどな。頭もすごくいいらしいし。何ヶ国語もできて、論文で何かの
 賞を取った事もあるんだって看護婦さんが自慢してたよ」
「あんまり頭がええと、やっぱりどこかでぶっとんでるんかな。白衣の美女でマッドサイエンティ
 ストてどないしたもんかなぁ」
「・・・ ハマり過ぎてて怖いから、そのたとえ止めて」
 通用口の扉を開いて外へ出る。駐車場へ向かいながら、
「恭ちゃん無事か? 知らんうちにどっか改造とかされてへんか?」
「されるかっ!!」
 子供向け特撮ヒーロー番組じゃないんだから、と文句をつけると哲平は笑い転げていた。
(・・・ ま、いいか)
 こんな馬鹿話をするのも久しぶりだ。心配もかけたし、これくらいはいいだろう。
 二人の声を聞きつけて、一足先に車の所へ辿り着いていた京香が呼びかけてきた。
「ご挨拶は済んだの?」
「はい。預かってもらってた物もみんな引き取ってきました」
 事故の時着ていたコートとか、壊れてしまったけど携帯とか。ペンダントや手帳も一緒に、
貴重品入れにあった物も全部揃って返してもらった。
「忘れもんないかー」
 運転席に乗り込みながら哲平が後の二人に声をかける。
「ああ、大丈夫」
「京香ねーさん、そっちロックかけますけどええですか」
「うん、いいわよ」
 シートベルトをしながら恭介が欠伸をかみころしていると、哲平に目敏く見つけられて
しまった。
「恭ちゃん寝とってもええで、着いたら起こすから。朝早かったんやろ」
「・・・ 起きてからずっと荷物まとめてたからな・・・」
 正直いってちょっと眠い。着くまでうとうとさせてもらうことにした。
「ほな、行くで」
 車は病院を出て、遠羽市内への幹道に向かって行った。 ――――




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