☆ 真神恭介誕生日 2007年度作品 ☆
デスクの上の電話が鳴った。 「はい、鳴海探偵事務所です。――あ、リジーさん・・・・・・ こんにちは!!」 京香の声が弾んだ。二言三言話して、すぐ顔を上げ、恭介を呼ぶ。 「真神くん」 「はい」 ソファから立ってデスクに向かいながら、恭介は尋ねた。 「この間の話ですか?」 「きっとそうよ。まどかちゃん、嬉しそうな声してたもの」 そう言う京香もかなり嬉しそうだ。 「え、まどかちゃん本人からですか」 「ほら、早く出てあげて」 受話器を受け取り、「もしもし」と言うと 「おにいちゃん!!」 まどかの明るい声が電話の向こうから響いた。 そもそもの始めは、十日ほど前のことだった。 「小さい子相手の得意な青少年にぴったりの仕事を紹介してやろう」 外回りから恭介が帰ってくると、誠司が何やら企んでいそうな笑顔で言い出した。 「別に得意ってわけじゃ・・・」 「まぁ俺はもちろん、女性には年齢を問わず対応できるけどな。やっぱり相手が幼すぎると、大人の魅力をもうひとつ理解してもらえない 時もあるからなぁ」 「お父さん!! そんなこと言ってないでちゃんと説明してあげて」 給湯室から出てきた京香が叱った。 「あのね真神くん、さっきリジーさんから連絡が来たのよ。まどかちゃんの相談にのってもらえませんかって」 「まどかちゃん、どうかしたんですか?」 心配になって訊いてしまったのは、もちろん療養中のまどかの健康に何かあったのかと思ったからだ。 「ううん、まどかちゃんは元気よ。困っているのはお友達のことなんですって」 病院暮らしの中で、まどかとリジーには長期入院患者同士の仲間付き合いといったものがあり、そのうち何人かとはお互いに 転院・退院した後も連絡を取り合っているらしい。相談したいのは、まどかと特に仲が良かった一人の女の子のことだという。 『動物が好きな、心の優しい子なんですけど。最近寝付いていることが多くて、あまり元気がないそうなんです。 その子が暮らしてる所で最近、雪が積もったので、お母さんが雪うさぎを作って喜ばせてあげようとしたんですけど・・・』 せっかくの心遣いが正反対の結果になってしまった。お盆の上に載せた雪うさぎを見せたところ、その子は泣き出してしまったというのだ。 理由を訊くと、暖かくなって溶けてしまうのが可哀想だから、欲しくないのだそうだ。本当は雪うさぎ自体は好きなのだが、以前読んだ 雪だるまの絵本に、悲しい結末(絵本の主人公と友達だったのが、やはり溶けていなくなった)があったとかで、それを思い出してしまったらしい。 そういう訳で壊すこともできず、とりあえず雪うさぎは溶けないように外の寒い所に置いてあるということだった。 「・・・・・・・・・・・・」 「そりゃまぁ、困ったなあ」 横で誠司がお気楽そうに顎を撫でながら相槌を打った。 「まどかちゃんとね、ちょっとだけ話したのよ。本当にそのお友達のことが心配なのね。 『パパにそうだんしたら、おにいちゃんにきいてごらんっていわれたの。おにいちゃん、まどかをたすけてくれたみたいに、あの子のことも きっと助けてくれるよね』って言われたから、もちろんよって言ったのよ」 「・・・・・・・・・・・・」 さらに京香に追い打ちをかけられ、恭介は頭を抱えて座りこみたくなった。 「俺、保父資格も教員免許も持ってないし、児童心理学とったこともないんですけど」 せめて横目で恨めしげに言ってみる。 「いやあ、ご指名だしなぁ? 信用絶大だな、頑張れよ、『おにいちゃん』」 案の定、肩をぽんと叩かれて、あまり誠意の感じられない励ましをもらっただけに終わったのだが。 できるだけ早くの連絡を待っていると言われ、目の前の京香と、脳裏のまどかの、懇願するようなまなざしに迫られて 恭介は思わぬ難題に取り組むことになった。 (病気の時って、精神状態でずいぶん具合が良かったり悪かったりするもんなぁ) 特に子どもとなれば、気持ちの影響は大きいだろう。話を聞くと、まどか同様、長いこと闘病生活をしている子だろうと思われるし、 少しでも元気付ける手伝いはしてやりたい。 (絵本か・・・ そういえば、前の地元で誰か、読み聞かせのボランティアやってたことがあったな。確か、うさぎさんが出てくる絵本も 幾つかあったけど――) 自分の記憶と経験からなんとかヒントを引っ張り出してみる。知り合いとメールのやり取りをしたり、図書館の児童書コーナーに 通ったりして、考えをまとめていった。 そして数日後、まどかに電話をした。 まどかは、小さな子には少し長い話を熱心に聞いて、何度かあちこちの内容を聞き直したあと、その友達に話してみると言って 電話を切ったのだった。 “とても可愛がってもらったものは本物になれる”っていうお話を知ってる? うさぎさんのぬいぐるみで、おともだちの男の子とすごく仲良しなんだけど、いつも一緒にいたからそのうちボロボロになっちゃってね。 あるとき男の子が病気になって、そのあと、捨てられちゃうんだ。病気の素がうさぎさんの中に入っているかも知れないからってね。 でも、うさぎさんは“本物になれる”話を知ってた。おもちゃ仲間の古い馬に聞いたことがあったんだ。―― そして、その通りになった。 雪だるまや雪のうさぎさんも同じだよ。一緒にいられる時間がずっと短いから、その分とっても大事に思わなくちゃいけないかもしれないけど。 本当に大事な友達になっていれば、たとえ溶けてしまっても、いつかどこかで本物になったうさぎさんと会えるかも知れないから。 それに雪は、目に見えないけど春の種を持ってると思うんだ。雪が溶けると、春になる。雪が少ないところは順番に春の花が咲くし、 雪の多いところはいっぺんにたくさん咲いたりするだろ? だから、雪のうさぎさんが本物になる時は、うさぎさんになるかも知れないし、花になってるかも知れない。 春になって、花やうさぎさんを見かけたら、その中のどれかが君のお友達かも知れないよ。 ――怖がらないで、雪のうさぎさんと友達になってあげて。そうしたら、君が、雪のうさぎさんを本物にしてあげられるから。 『あのこ、おにいちゃんのいってたほんのこと、しってたよ。よんだことあるって。だからきっとそうだねって。 ゆきうさぎをみても、もうなかないって。もっとげんきになるって。はるになったら、おはなやうさぎさんをきっとさがしに いくんだっていってたよ。まどかもね、いっしょにうさぎさんさがしにいこうねってやくそくしたんだ』 「そうなんだ。よかった」 『うん、あのこがげんきになって、まどかもうれしい。ありがとう、おにいちゃん。・・・・・・え、なあにママ?』 どうやら隣でリジーが何か言ったらしい。 『あ、あのね、おにいちゃんに、なにかおれいしなきゃって』 「え? いや、いいよ。まどかちゃん、もうありがとうって言ってくれたし」 こういう時、誰も異議を唱えないのが鳴海探偵事務所である。 「お礼なんていらないわよね、お父さん」 「依頼を引き受けた本人が要らんっていうんだし、いいんじゃないか?」 『でも・・・・・・』 しばらく電話の向こうとこちらで沈黙した後、恭介はこんな提案をした。 「そうだな、じゃあこうしよう。―― “たんじょうびおめでとう”って言ってくれる? まどかちゃん」 『たんじょうび、おめでとう?』 不思議そうに繰り返す。 「うん、ありがとう。・・・じゃ、これでまどかちゃんは俺に誕生日プレゼントをくれたから、それがお礼」 『え? え? おにいちゃん、きょう、おたんじょうびなの?』 「そう、今日なんだ。元気なまどかちゃんがお祝いしてくれる声が聞けてうれしいよ。すごく素敵なプレゼントだな。 どうもありがとう」 『わー、ほんとに? おにいちゃん、おめでとう!!』 納得すると、今度は弾むような声で祝ってくれたのだった。 そのあと、誕生日宴会場となったスピリットでは当然この話が酒の肴にされた。 感心されたり笑われたり反応はいろいろだったけれど、恭介らしいということで何故か評判は一致していた。 そして、この日贈られたプレゼントのうち、まどかに貰ったものは他のどれにもおとらず嬉しいと、結構本気で考える恭介だった。 【了】 |
★コメント :やっぱり当日中には間に合わなかった・・・か? ←間に合いませんでした。(追記) 2007年恭介誕生日作品です。相当強引に誕生日にこじつけてますが(苦笑)。 かなりカラーが違って、メルヘンチックというか童話風というか、そんな感じになってしまいましたが(汗) 某所から「雪うさぎ」を使って、という指定が入りましたので・・・ 恭介誕生日でまどかちゃん・雪うさぎというと、他サイト様方(複数)とネタ被りになってしまうんですが なんとか違う話に仕上げました。どうぞご容赦を。 (うー、推敲が全然できてない〜。ぶっつけに近いですーすみませんー。) 作中に出てきた物語は実在する絵本(「ビロードうさぎ」)です。ストーリーの細かい処は省略しちゃいましたが。 古くからあるかなり有名な本ですし、読んだ覚えのある方もいらっしゃるのではないでしょうか☆ ただ、この話によれば「ほんとうのもの」になるのはとても長い時間がかかるということなのですが ここでは「思いの深さ」で補える、という解釈に(勝手に)してしまいました。 まどかちゃんのお友達への説明は、結構真面目に考えました。今の私に出せる答えはこれくらいです。 恭介の「お礼」は・・・ 多分、昼間読み返したら恥ずかしくて・・・しんでる・・・かも・・・(めっちゃ自爆) |
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