☆ 2006年 teile ei 真神恭介誕生祭 参加作品 ☆
1月30日、深夜。 「ん・・・」 背中から聞こえていた息遣いが変わって、少し身じろぎするのがわかったので、哲平はそっと声をかけてみた。 「目ぇ覚めたか、恭ちゃん?」 首を起こして、溜息をつく気配。 「うん、起きた。――もういいよ、哲平。自分で歩く」 ずり落ちるようにして背中から降りたが、恭介の足取りはまだかなり怪しい。 よろけたところへ手を貸して支えると、苦笑して言う。 「やっぱり、こうなると思ってたんだよなぁ」 「スマンな。オレが口滑らしたから・・・」 「お前のせいじゃないよ。最初から所長に引っかけられてたんだ。むしろ所長と成美さん二人がかりでこられて、今夜のうちに目が覚める余裕が あっただけマシだよ」 はじまりは、セクンドゥムへ入ってきた恭介が新しいマフラーを巻いていて、目敏く成美に追求されていたところへ哲平がうっかりそのマフラーを 京香が買っていたところを見たと発言してしまい。 さらに、その場へ電話が掛かってきてスピリットへ連れ出されたと思ったらそこには誠司が待ち受けていて、無理矢理誕生祝いといって呑まされるわ、 京香が乱入して来て大喧嘩になるわ・・・ いつものようにというか、いつにも増してというか。――まあ、大騒ぎになったわけなのだが。 「京香さん、こないだ俺がマフラーなくしたの覚えてて、それでプレゼントしてくれたんだよなぁ」 ちなみにそのマフラーは奈々子が天狗橋のそばで拾った子猫をくるむのに使われて、なんとか飼い主の決まった猫ごと持って行かれてしまった のだったりする。 京香はその話も聞いていたし、事務所のデスクワークをひとりで引き受けているから恭介の誕生日については履歴書をはじめ各種書類などで 見ていただろう。 なくした後、恭介がその分を買い直す様子がないのを見かねて、無理なく受け取ってもらえる「誕生日プレゼント」として贈ってくれたのだ。 しかし、そんな(絶好の)状況を誠司が黙って見過ごす筈はなかった。 「『せっかく貰ったんだから、今すぐ使って見せるよなあ』って、やけにしつこく言われて・・・ なんかあるような気はしてたんだけど」 贈り主を前にそう言われたら、恭介としては素直に従う他はない。 「そん時から恭ちゃんダシにして遊ぶ気満々やったんやな、あのオッサン」 「・・・・・・成美さんに見られる前に外してても、それはそれで突っ込まれたろうしな。お前が何も言わなかったとしてもあの電話で一発だったし」 『よぉ女王様、今日は可愛い弟くんの誕生日だそうじゃないか。ここは是非、祝宴のひとつも張らないとなぁ? どうだい一緒に』 ――つまり、元から逃げ道は断たれていたのだ。 「それでも、お前と京香さんがかばってくれたおかげで大分助かったよ」 娘のカンか、これまでの経験からか、“関係者”一同がいないのに気がついた京香がスピリットに駆けつけてくれなかったら、哲平ひとりでは かばいきれずに恭介はもっと徹底的に潰されていたことだろう。 ふらついてつまづきかけた恭介に背に戻るか聞いてみると、案の定、辞退された。 哲平は苦笑し、それから少し息を落とす。 「今日が誕生日やて、前もって言うてくれればええのに・・・ おかげでプレゼントも何も用意できんかってやあ」 「ごめん。別に隠すつもりはなかったけど、言い立てることでもないと思ってたし・・・ それに、いつも世話かけてるのに、これ以上何かもらおうなんて 思えないよ」 いかにも相棒らしい答えだが、相変わらず自分に関わることにはニブい。 哲平は強い口調で言った。 「こういうのは祝いたいと思っとるモンが祝うんや。なぁ、なんか欲しいもんないのか?」 「・・・・・・・・・」 酒が抜けきらずぼーっとした表情の恭介は、少し考えるように黙っていたが、やがて首を振った。 「・・・思いつかないよ」 「嘘やな」 「えっ・・・」 「さっき何か考えてたやろ」 そんなに俺の表情って読まれやすいのか、と恭介は赤くなって文句を言っていたが、答えを促されてしぶしぶ口を開いた。 「今日じゃなくてさ。――いつか、頼みたいなと思ってたことはあるけど」 「今でもかまへんやろ、別に」 「誕生日みたいな『記念日』に頼み事したら、それは――重くなって、強制力を持つような約束になっちゃうだろ。俺の個人的なことで お前をそんな風には・・・ 縛りたくないから」 聞いた途端に、哲平は思わず笑顔で恭介の頭をぐしゃぐしゃと撫で回してしまった。 「撫でるなっ!!」 「もー、この子はホンマにー」 それから手を止めて、真面目な顔で聞き直す。 「で、何を頼みたいんや?」 何度めかのぐしゃぐしゃ攻撃の後、ようやく恭介は降参して白状した。 「9月にさ、俺達の方で手が回らなくて、白虎の人に行ってもらった所があるだろ。不動産屋とか調べてもらって」 「――ああ」 今はもうなくなった、ある家族がかつて住んでいた場所。 「あそこに、いつか行ってみようと思うんだ。その時、お前と、あともう一人に一緒に行ってもらえたらと思って・・・」 「もう一人、ってねーさんか」 低い声でたずねると少し意外な答えが返ってきた。 「いや、前の街の友達。キンタっていうんだけど」 「・・・ああ、いつか大将に攫われて行方不明んなってた恭ちゃんのツレか」 「うん。あいつにもずいぶん手伝ってもらったから」 「オレの方はいつでもええで。決まったら、声かけてな」 哲平は普段と同じ調子で返事をした。 「――うん。ありがとう」 恭介も、静かな笑顔でそう呟いた。 その後しばらく歩いていくと、気が抜けたのか恭介はまた眠り始めてしまった。 「恭ちゃん、もう足元アカンて」 「――お前がさっき、人の頭、思いっきり揺さぶるからだろ・・・ 酒が、回って・・・ まだ、歩く・・・っ・・・て・・・」 強情を張るが、途中からもう寝に入っている。 間もなく完全に眠ってしまったので、哲平は相棒を背負い直して歩いて行った。 恭介の家に向かいながら、さっき交わした約束のことを思う。 たとえ記憶になくても、自分の家族がそこで平和に暮らしていた家のあった土地。そこを訪ねるのは、恭介にとって「帰郷」という意味をも持つことに なるのだろうか。 両親と娘が寄り添い、まだ見ぬ新しい家族に向かって呼びかけられたかもしれない言葉。その人たちがもういなくても、残された思いだけはきっと 今も変わらず彼の上に注がれている。 いつか彼がその地に立った時、悲しみだけでなく、その温かさも感じることができるといい。そして隣にいる自分達が、少しでもその思いの助けに なれたらと願う。 「お休み恭ちゃん。誕生日おめでとう、な」 そして、お前と、お前をこの世に送り出してくれたすべてのものに祝福があるように。 <了> |
★コメント ・2006年1月の teile ei 様にて行なわれた「真神恭介誕生祭」に参加した作品です。 場所が絵板だったのと体調の都合(カゼひき真っ最中…)で、当時はかなり文字数を抑えての発表だったのですが、 引き取り公開にあたって、無題だったものにあらためてタイトルをつけ、いろいろ不足点のあった内容を見直して 加筆訂正してみました。 ・・・ていうか、余分な言葉を付け加え〜な気がしないでもありませんが(涙) うう。精進精進。 |
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