〜 Prologue 〜

 夏の長い日も暮れかかる頃。
 鳴海探偵事務所では、唯一の所員である恭介と所長代理の京香が帰り支度をしていた。・・・ちなみに所長本人は既に何処かへ
遁走済みである。
 火元や鍵などを確認していると、ポケットで電話の着信音が鳴った。
 表示に相棒の名前を見て恭介が携帯の通話ボタンを押すと、いきなり予想とは違う声が聞こえてきた。
『見習い、大変だよ!! 投げられちゃって探しに行ったらいなくなっちゃってそのまま帰って来ないしお人形かも知れないから助けに
 行かないと!!』
「・・・何の話だそれは」
 思わず茫然として呟くと、電話の向こうでは何やら騒がしい物音がして、やがて哲平の声に代わった。
『――も、もしもし、恭ちゃん!?』
 後ろでは相変わらず騒ぐ声が聞こえている。どういう状況か察しのついた恭介は溜息混じりに応えた。
「・・・奈々子がそばにいる時の電話は気を付けたほうがいいぞ。で、いったい何があったんだ?」
『スマン、油断したわ。・・・それなんやけど、今タカから電話がきてな』
 この時間になっても皐月が家に帰ってこないので、探すのを手伝って欲しいというのだった。
「皐月くんが?」
『数見町のメロディーマート前で待っとる言うてんけど、恭ちゃんすぐ出て来れるか?』
「ちょうど上がるところだったんだよ。すぐ行く」
 話を聞いた京香も心配して、二人は一緒に事務所を出て数見町へ向かった。

 

  ☆ Missing Parts & 流行り神 コラボレーションストーリー ☆

 
鳴海探偵事務所×警視庁 怪奇事件ファイル

  人形の家



 <1>

待ち合わせ場所のコンビニ前に着くと、哲平、奈々子、睦美、タカの四人が集まっていた。
「見習い、こっちこっちー!! あっ、京香さんもー?」
 奈々子が手を振る。
「んな大騒ぎすることじゃねーんだよ、こんなに大勢呼ばなくても・・・」
 睦美が不機嫌そうに言うのを、タカと京香がなだめた。
「まあそう言うなって。こういうのは絶対人数が多いほうがいいんだからよ」
「皐月くんが何の連絡もしないでこんなに遅くなるなんて、きっと何かあるんでしょう?」
「大したことじゃねぇよ。迷子にでもなってんだろ」
「“人形屋敷”ン中でか? 充分たいしたことやないか」
 哲平が口にした言葉に京香が息を呑んだ。
「えっ・・・ あそこへ入ったの?」
「そーなんだよ! 大変でしょー? 皐月くん男の子だし」
「ちょっと待て」
 訳がわからず、恭介は勢い込んで話し続けようとする奈々子を止めた。
「何なんだ? その“人形屋敷”って。それに男の子だと何があるんだ」
「えー、見習い知らないのー!?」
「そぉか、あれ恭ちゃん引っ越してくるよりだいぶ前の話やもんな」
 実は結構有名な場所で、この中で知らなかったのはどうやら恭介だけらしい。京香が説明してくれた。
「もう誰も住んでいないんだけど、もともとちょっとした資産家のお家だったの。3年くらい前に火事でご主人夫婦が亡くなってから
 そのままなんですって。奥さんが人形コレクターだったから、今でも家の中にはたくさんの人形が残ってるそうよ」
「それで“人形屋敷”?」
「そんで空家ンなってしばらくしてから、妙な噂がいろいろ立ち始めてな」
 いわく、置きっ放しの人形の髪が伸び続けてるとか、家の中から子供の声が聞こえたとか、人形が一人で家の中を歩いていたとか。
「はじめはそういうよくある話だったんスけどね。いつからかもっと怖い噂が流れてきて人が寄り付かないようになったんスよ」
「男の子がどうとかって話がそれなのか」
「あのねー、あそこに入ると女の子は外に出されるだけなんだけど、男の子は二度と出て来られないんだよ」
 そこで一旦言葉を切ってあとを小さい声で続けたのは、奈々子なりに気を遣ったらしい。
「・・・呪いで人形にされちゃうか、死んじゃうんだって・・・」
 恭介は眉を寄せて尋ねた。
「誰か本当にいなくなった人がいるのか?」
 皆があいまいに首を傾げる中で、タカがおずおずと声を上げた。
「ずっと前に飲み仲間に聞いたことあるんスけど、そいつのダチがあそこへ入り込んだあと姿みせなくなったって・・・ 人形に祟られて
 死んだんじゃねぇかって話で」
「入った奴の名前は聞いてるか?」
「いや、そこまでは」
「そうか・・・ 奈々子、お前は女の子でそこに入った子って知ってるか?」
「ううん。みんな怖がってるし、入ったことある子なんて聞いたことないよ」
「・・・まぁ、噂なんてそんなもんやな」
 哲平が頭を掻きながら言った。
「その話かて、枕ヶ碕に出入りしてた奴なら居なくなるのもその理由も他の事かも知れんしなあ」
「噂なんかどうでもいいだろ!!」
 イラついた様子の睦美の叫びを、恭介は落ち着いて受けとめた。
「そうでもないよ。実際にそこがどんな所なのかってことは大事な手がかりだし。――それと、この噂は皐月くんも知ってるのか?」
「あ、ああ、そりゃ・・・ あそこの前、通学路だし」
 どういう通学路なんだ、と男性陣3名が胸の内で突っ込むのをよそに、京香が問いかけた。
「ねえ、それじゃどうして皐月くんはそんな所に入って行ったの?」
 それを聞くと何故か奈々子がふくれた。
「駄目じゃん、見習い。ちゃんと京香さんに説明しとかなきゃ」
「俺は聞いてないぞ?」
「さっき電話で言ったでしょー」
「あれのどこが説明だ!?」
 危うく不毛な口論になりかけたところを哲平が割って入り、ようやく聞くことができた経緯は次のようなことだった。


 夕方、睦美が出かけようとして玄関を開けると、家の前に皐月と同じ中学校の制服を着た女の子がカバンを持ったまま所在なさげに
立っていた。――いま学校では夏季補講が行われているのだが、もうそれもとっくに終わっている時刻だ。
「・・・? うちになんか用か」
 その子は声を掛けられると何度かためらった後、おどおどした様子で尋ねてきた。
「あっ、あの・・・ 波多野君は帰って来てますか」
「皐月か? そういや居なかったみてぇだけど」
 さっき母親が、学校からの帰りが遅いとおろおろして何かこちらに言ってきていたような気がする。
 思い出してそう答えながら、睦美はその子の持っているカバンに気がついた。女子用でなくて男子用だ。しかも見覚えのあるキー
ホルダーが付いている。
「あれ、そのカバンあいつのじゃねえの」
 するとその子はいきなり泣き出してしまった。
「ご・・・ごめんなさい、ごめんなさい!! 波多野君、あたしのせいで・・・」
「え!? ちょ、ちょっとあんた」
 これでは傍目にまるで自分がいじめているみたいに見えてしまう。焦った睦美はその子を玄関の陰に連れて行き、どうにかなだめて
話を聞いた。
 皐月と同じクラスだというその子は、いつも特定の男子何人かにいじめられていて、今日も持ち物を取られてしまったのだという。
「ずっとうちで飼ってた猫の首輪で・・・ すごくいいこだったんです。年寄りだったけど すごく頭が良くて、まるで人の言葉がわかる
 みたいで。あたしのこともよく慰めてくれて。でも、とうとう死んじゃったからさびしくて、せめて首輪だけは持っていたくて」
 いわば形見の品で、お守り代わりに持っていた大事な物なのでさすがに諦められず、追いかけて行った。
 しかし悪ガキどもはさんざん彼女を走り回らせた挙句、“人形屋敷”の前まで来るとそれを中に投げ込んでしまったのだ。
「途中から波多野君があたし達のこと見つけて、『やめろよ』って言って一緒に追いかけてくれたんですけど、あいつら全然きかなくて。
 波多野君にまで悪口言うし」
『女だったらこん中入っても平気なんだろ? 取ってきてみろよ! ああ、女の腐ったのみたいな弱虫波多野でも大丈夫かもな』
 そう捨て台詞を残して逃げてしまった。
 ものすごく悔しいし取り戻したくはあるのだが、さすがに怖くて中には入れない。
 その場に立ちつくしていると、皐月がこちらにカバンを預け、自分が取って来るからと言って屋敷の門を開けて入っていってしまった――。
 そのまましばらく待っていたが、皐月はいつまでたっても出てこない。
 不安を募らせた彼女は、もしかして屋敷の別の場所から出て行ったのかも、と一旦自宅に戻ってみたのだが、皐月が訪ねてきた様子は
ない。屋敷の門の前に戻ってみても、やはり何もわからないので、ついに皐月の家まで来てみたというわけだった。
 この時、皐月が中に入ってから既に一時間以上経っている。
 睦美はカバンを受け取って、自分が探しに行くから心配するなと言い含め、その子を家に帰らせた。
 母親にこんな話をしたら卒倒しかねないから黙っていることにして、睦美は家を出た。
 そうして屋敷に向かう途中で偶然タカに会い、睦美の様子から変事に気づいたタカが、話を知って哲平に連絡した。たまたまサイバリアで
一緒にその電話を聞いた奈々子がついてきて、最後に呼ばれた恭介と京香とが揃って今に至る。


「人形の呪いって話はともかく、廃屋の中は足元が崩れてたりして危険だから、何処かで怪我をして動けなくなってる可能性はあるな」
「なるほど・・・ そうッスね」
 空の色を見ながら京香が心配そうに呟いた。
「もう暗くなっちゃうわね・・・」
「そうですね、明かりの用意が必要かな」
 時間が惜しいので、一行は目の前のコンビニで準備を整えることにした。
 メロディーマートの中に入ると手分けして懐中電灯や軍手、救急バンソウコウなどを集めていく。
 品物を集め終えた恭介がレジに向かおうとすると、ふいに後ろから声を掛けられた。
「やめとき」
「・・・え?」
 関西弁だが女性の声だった。驚いて振り返ると、知らない女性がこちらを見て立っていた。
 何故か競馬新聞を手にしているが、その表情は真剣で、女性ながらどこか精悍という言葉が似合いそうな印象だった。
 彼女は重ねて恭介に言った。
「アンタはあそこに行ったらあかん」
「あそこって――どうして」
「あの屋敷にはもう警察の人間が行っとる。そいつらに任して、あんたは家に帰るんや。ええな、中に入ったらあかんで」
「何か知ってるんですか? あなたは一体・・・」
「恭ちゃん、どないした?」
 哲平が棚の陰から顔をのぞかせた。恭介がそちらへ目を向けた隙に、彼女は小銭をカウンターに投げ出してさっと店を出て行く。
「あ、待っ――」
 追いかけたかったが、清算前の商品を抱えてレジの目の前にいるのでは咄嗟について行けなかった。
「誰や、今の」
 恭介の様子から只事ではない気配を察し、哲平が表情をあらためて出口の向こうへ視線を送る。
「わからない。けど・・・ あそこに行くなって警告された」
「なんやて?」
 清算を済ませて品物の入った袋を受け取ると、二人は店の外に出た。
「おい、今、新聞持った姐さんが出て行ったやろ。どっち行った?」
 哲平がタカに尋ねる。
「え、いや気がつきませんでした」
 捕まえておけばよかった、と哲平は舌打ちしたが、恭介はなんとなく、あのまま追っても彼女を見つけることは出来ないような気がした。
「警察が来てるとも言ってたな・・・」
「オレら誰も通報なんかしとらんで」
「・・・・・・」 
 考え込む恭介に、既に歩き始めていた女性陣の中から声がかかる。
「見習い、何してんのー? 行くよーっ」
 哲平はぽんぽんと恭介の頭を叩いた。
「とりあえず、行ってみたらホンマかどうかわかるやろ。あの姐さんも、もしかしたらそこにおるかも知れへんし」
「うん――」
 相棒とともに歩き出しながら、恭介は何故かあの女性が「自分に向けてだけ」警告したように聞こえたことを思い返していた。――――


                                        <第1回 了>




★コメント

 ・夏休み(第1回の発表時期だけじゃないか…)特別編、ようやくお届けです。
  これは別ゲームである「流行り神」or「流行り神Revenge」(日本一ソフトウェア)のキャラクターと世界観の一部を
  取り入れて作らせていただいた「共演ストーリー」となります。
  「流行り神」をご存知ない方でも読めるように目指してますが、知ってた方がより面白いかなーと。
 ・全体にMP寄りになるかなとは思いますが、お相手がホラーADVですので、起こってくる現象がいつもと違って
  まあいろいろとその(汗)。えーと、理不尽な使い方はしないつもりですが、カラーが変わってくるのはご勘弁を。
 ・今回はあちらのキャラはまだ一人しか出てきてません。愉快な先輩後輩コンビ(笑)は次回からの登場となります。
 ・次回もなるべく早目にまとめたいと思いますが、間に別の宿題がいろいろと挟まってますので(大汗)
  気長にお待ちいただけるようお願いします・・・(ぺこ)
   

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