Theme 08:許せなかった

   教習所にて



 その頃、KYOと、I−ZUと、オレこと通称キンタは地元の教習所に自動車免許を取るため通っていた。
 ・・・というか、オレが後の二人を無理矢理引っ張り込んだんだが。

 「オレの愛は四つ輪なんかに捧げねー」と喚くバイク野郎のI−ZUをなだめすかし、珍しくオレの誘いに乗り気を見せなかった
KYOには、説得工作の末、ついに奥の手で「探偵やるんだったら車の免許くらいないとな」の一言で口説き落とした。
 ――そのことを後悔する羽目になるとも知らずに。

 十八の誕生日を迎えるとそれを待ちかねて、高三の間に自動車免許を取る奴は結構いる。だがやはり多いのは進路の決ま
った卒業前後だろう。
 しかしオレ達は三人とも必殺バイト人ばかり、平たく言えば金がない。出してもらえるような相手も持っていなかったので、
資金は何とかして自分で調達するしかなかった。
 それでまぁシーズンには外れるが、高校卒業後一年くらいしたところでようやく資金が溜まったので、こうして教習所通いを
始めたというわけだった。

 その日、オレは調子が良かった。
 連続二時限で実技の予約を取って、一限目に首尾よくハンコをもらい、次の時間でこの段階を終了しようと目論んでいた。
 休憩時間で教習所のロビーに戻ってくると、ちょうど二階の教室から講習の終わった連中がぞろぞろ階段を降りてきた処で、
カウンターの前は人で溢れていた。
 オレはその中にKYOを見つけて声をかけた。
「KYO! もう帰りか?」
「あ、キンタ」
 KYOはこっちに気が付くと、ちょっと足を止めて人の流れをやり過ごしてからこちらに近付いて来た。
「うん、今日はこの後遅番でバイトが入ってるんだ。一度うちに帰って晩飯の仕度してから出るから」
 KYOの家は祖父(じい)さんと二人暮しで、こいつが家事一切を引き受けている。
「そうかー、遅番か。残念だなぁ」
「また食べに来るつもりだったのか?」
 一人暮らしで料理のできないオレは、しょっちゅうこいつの家に上がりこんで飯を食わせてもらってる。もちろんいつもタダ飯
ってわけには行かないので、それなりに食材の持ち込みはしているが。
「だってお前のメシ美味いしさ。まぁいいや。また今度何か持ってくから、そん時頼むわ」
 KYOは苦笑した。
「いいよ、多めに作っとくから来いって。・・・けど、少しは自分で簡単な料理くらい覚えた方がいいんじゃないのか?I−ZU
 だって最近、昼は弁当の方が金かからないからって挑戦始めたぞ」
「えっ? KYO、オレに弁当作ってくれんの?」
「誰もそんな事言ってないだろ!」
「いやー、ありがとう。さすがだ、愛してるぜ」
「俺は愛してないっ!!」
 ・・・いつも通りのアホなやり取りだが、今日はどうもこいつの表情が上の空っぽい。
「どうした?」
 マジな顔に戻って突っ込んでみると、
「え? ――ああ、ごめん。ちょっと考え事しててさ。・・・じゃあ俺、これで帰るから」
 あっさりかわされてしまった。
 なんとなくそれ以上は聞きそびれて、そのまま外へ出て行く後姿を見送る。
 ――と、そこへでかい声と共に人の背中を思いっきり叩くヤツがいた。
「よっ、キンタ!!」
 見なくてもわかる。こんな事をする奴は一人しかいない。オレは嫌な顔をして振り向いた。
「出たなバイク野郎・・・」
 痛いんだからやめろと何度言っても、こいつは聞いた試しがない。今もオレの恨みがましい目付きには知らん振りで
I−ZUは玄関の外を眺め渡した。
「あれ、一足違いか。恭介はもう帰っちゃったんだ?」
「ああ、この後バイトなんだってさ」
「ふーん・・・」
 I−ZUは、こいつにしては珍しく神妙な顔をした。
「――なぁ、あいつなんか言ってた?」
「お前が弁当作り始めたって」
「あ、そうなんだよ。あれさー、メシはともかくおかずを毎日どうしようって・・・ いや、その話じゃなくて!」
 ・・・こいつも反応(ノリ)はいいんだよな。
「講習について何かって」
「いや? 別に何も言ってなかったけど」
と答えると、
「・・・んじゃ、大丈夫だったのかなぁ」
 独り言みたいに呟いている。
 どうも引っかかったので、オレは今度はこいつに突っ込んでみることにした。
「何だよ。講習がどうかしたのか?」
 するとI−ZUは妙な目付きでこっちを見た。
「・・・俺、ホントは今の時間、恭介と同じ講習の筈だったんだよ。うっかり寝過ごして遅刻しちまってさぁ、一緒に受け損ねた
 んだけど」
「何の講習だって?」
「ほら、アレだよ。ビデオ見るヤツ」
「ああ、すげぇ臭いドラマ仕立てって噂の」
「うん、そうなんだけどさー・・・」
 その時チャイムが鳴った。周囲の生徒達が再び一斉に移動を始める。
「あ、悪い。オレ次も実技なんだ。またな」
 まだ何か言いたそうなI−ZUを置いて、オレも外のコースに向かった。

 せっかく段階終了をかけた二時限目の実技だったが、KYOの様子とI−ZUの話がどうも頭から離れず、いまいち集中
しきれない。
 オレはAT限定じゃなくてマニュアルで取ってるので、発進の時なんかはクラッチの調節が要る。
 慎重にペダルを踏み込んだところで、さっき交わした会話の切れ端がふっと浮かび上がってきた。

『・・・アレだよ。ビデオ見るヤツ』
『ドラマ仕立てって』

 確かそいつは「交通事故について」の講習じゃなかったか。

(交通事故・・・って)

『ちょっと考え事しててさ』
『晩飯の仕度してから・・・』

 親のいない、KYO。
 なんであいつが家事をやってるかっていえば。
 小さい時に。
 両親ともいなくなって。
 事故で、
 死んで――――!!

 思い切りペダルを踏み間違えた。
 助手席の教官が急いで指導用のブレーキを踏む。車は甲高い音を立て、つんのめって急停止した。
 オレは前を見つめてハンドルを掴んだまま、心臓が身体中に響かせる音を聞いていた。
(オレは、馬鹿だ・・・・・・!!)
 教官が叱っている声も耳に入らなかった。
(こんな大事なことを忘れてたなんて)
 I−ZUは気が付いてたのに。
 自分の間抜けさと無神経さが赦せなかった。
(最初からあいつは乗り気じゃなかった)
 当たり前だ。
(――KYOは)
 オレが教習所に行こうと言い出した時、どう思っただろう。
(探偵になりたいって)
 たった一度だけ、何かの時に口にしたのを聞いた。両親の事故の真相を知りたいのだと。
(それを、オレは、・・・こんなくだらない事のために、あいつに向かって言ったりして――!!)
 やりきれない気持ちで身体が熱くてたまらなかった。
 すぐにもあいつの後を追いかけて謝りたかったが、遅番のバイトじゃ夜まで帰って来ない。
(・・・それでも、)
 KYOの家に行こう。どうしても、会って謝りたいんだ。

 ――当然、その時間の実技は不合格だった。
 だがオレはそれどころじゃなかった。自分の部屋に帰ってじりじりしながら、夜になりKYOがバイトから上がる時間を
待った。
 こんな時に限って自分の方はバイトが入っていない。KYOの方も、コンビニとかの販売系だったら直接店に行って
休憩時間とかの合間を見て話せたんだが、今日のは他人が入って行ける仕事場じゃなかったので終わるのを我慢するしか
ない。
 夜になるまで、オレは部屋で引っくり返ってあいつの事を考えた。
 KYOとは家が同じ学区内で、小・中・高と同じ学校だったから、まぁ近所同士といえるだろう。
 だが不思議と、高校に入るまで同じクラスになった事は一度もなかった。そして高校生にもなれば他人の家の事情に
そんなに関わったりはしない。・・・相手から相談されたら別だが。
 KYOは自分の境遇についてはあまり話をしなかったし、オレ達も気にしていなかった。
 さすがに近所だから、親がいないらしいとか、それはどういう事情でとか、噂でなんとなく知ってはいたが、本人に直接話を
聞いた事はなかったんだ。
 ・・・だからって、そんな事はつまらない言い訳にしかならないが。
(話して、くれるかな・・・)
 許してもらえるようなら聞いてみようとオレは思った。

 夜になると、オレはすっかり暗くなった道をKYOの家にとんで行った。
「――キンタ?」
 幸いKYOは時間通りに帰って来たらしく、インターホンを押すと、玄関に明かりをつけながら表に出てきた。
「晩飯の時間に来なかったってじいさんが言ってたけど・・・ 今から食うのか?」
「・・・あ、ああ。そういやメシは食ってないけど・・・・・・」
「食うんなら俺の部屋に来いよ。居間の方はもう片付けちゃったからさ」
「うん。――いや、あのっ!!」
 すっかり忘れてて腹は鳴ってたけど、そんな事の為に来たんじゃない。
 そこでふと気が付いて、オレは顔を上げた。
「お線香、上げさせてもらっていいか? その・・・ご両親にさ」
 KYOはわずかに目を見張ってオレを見た。
「いいよ。・・・じゃあ、こっち」
 そう言って、廊下の奥の、普段行った事のない方へ案内してくれた。
 一つの部屋の前で立ち止まり、KYOは中へ声をかける。開いている襖の隙間から明かりがもれていた。
「じいさん、ごめん。ちょっと入るよ。――キンタがお線香あげてくれるって」
「そうか、それはそれは・・・ どうぞ、入りなさい」
 中にいたのはKYOの祖父さんだった。寝る仕度をしていたらしく、もう布団が敷いてあった。
「夜分にすみません・・・」
 オレは縮こまりながら頭を下げて室内に入った。
 仏壇の前に行くと、KYOが慣れた手付きでロウソクと線香を取り出し、火をつけてくれる。
 オレは線香を立てて鈴(りん)を鳴らすと、手を合わせて深く目を閉じた。
「――――」
 目を開けて頭を上げると、KYOはロウソクの火を手で煽いで消した。
「じゃ、ここの扉開けとくから・・・」
「構わんよ、まだ起きとるからな。ああ、キンタ君、どうも有難う」
「いっ、いえ・・・」
 礼を言ってもらえるようなことじゃないので、オレは慌てて頭を振り、その部屋を辞した。

 廊下に出るとKYOが、
「先に行ってろよ。食べるもの持って来るから」
 台所の方へ行こうとするので、オレは引き止めた。
「それは後でいいからさ、ちょっと・・・・・・」
と言うと、KYOは黙ってこっちを見て、それから自分の部屋の方に歩き出した。オレもその後をついて行く。
 部屋の中に入ると、KYOは奥の壁にもたれて座り込み、それで?という顔でオレの方を見た。
「――すまん!!」
 オレは突っ立ったまま頭を下げ、怒鳴るような勢いで謝った。
「・・・どうしたんだ? 急に」
 そりゃいきなりじゃわからないか。オレは慌てて補足した。
「昼間、教習所で会った時さ・・・ あれ、事故のビデオ見た後だったんだろ」
「――ああ、お前もあの講習あったんだ」
 KYOの声の調子が、ほんの、気を付けていなければそれとわからないほどわずかに沈む。
「いや、オレは見てないんだけど・・・ I−ZUから聞いて」
「あいつ、来てたんだ」
「寝過ごして遅刻したって」
 だから、そうじゃなくて! オレは拳を握り締めた。
「オレっ、考えなしでお前を教習所に誘ったりなんかして・・・」
 そう言うとKYOは軽く目を見開いた。
「そっか、それで気にしてくれたのか」
 それから苦笑混じりの声で続ける。
「大丈夫だから、そんな顔するなよ。謝ってもらうような事は何もないし」
「・・・でも・・・!」
「あの時は思い出そうとしてた事があってさ、そっちに気を取られてただけだって。――ちょっと、こっち来いよ」
「え」
「いいから」
 隣に座れと手招きされる。
 ためらいながら指定の場所に座り込むと、KYOに軽く頭を殴られた。
「ったく、キンタらしくないな。何事かと思ったよ」
「それはないだろ、KYO〜。オレだってさ、こう見えても・・・」
「――うん、わかってる。・・・ありがとう」
 何気ない口調だったが、オレは危うく涙が出そうになった。
 KYOはそれに気が付いてたみたいだけど、見て見ぬ振りをしてくれた。
「本当に気にするなよ。俺が自分で決めた事だし、お前が言ってたのもその通りだしさ」
 オレは呻いた。
「うわー、やめてくれ・・・」
「なんでだよ? ホントの事だろ。まぁ、車ってものに全然何も感じないわけじゃないけど、実際のところ、この社会で車と
 関わらないで暮らすわけにはいかないしな。運転免許や技術自体は、必要だし身につけておいた方がいいと思ってたんだ。
 ――探偵になるならないは別にしてもさ」
「・・・やっぱり、そっちの方へ行きたいのか?」
 オレはおそるおそる聞いた。
「できればね。ただ、そういうのってどうやって就職したらいいのかよくわからないし。最近、本当に活躍してる名探偵が
 いるって聞いたんだけど、その人も警察出身らしいんだよ」
「へえ・・・ 実際にそんな人がいるんだ」
「うん。俺も驚いたけど。・・・だったら、やっぱり警察に入るのがいいのかなぁとも思ったんだけど――俺、苦手なんだよな。
 ああいうかっちりした組織って」
 KYOは難しい顔をした。
「そうなのか? お前ならうまくやっていけそうな気もするけど・・・」
 KYOは年上の人間に受けがいいのだ。確かに礼儀正しいし、敬語もきちんとしてる。きっと祖父さんの影響なんだろう。
「あの、上から下への命令が絶対っていうのが駄目なんだよ。どんなに理不尽だったり、単に命令する側の都合だったりしても
 従わなくちゃいけないだろ? そういうの、我慢できないんだ。・・・だから体育会系のクラブにも入れなくってさ」
「成程ねぇ」
 意外な話だったが、こいつの性格を考えると頷けた。融通が利かないわけじゃないのだが、基本的に真面目で正義感が
強く、嘘やごまかしが嫌いだし苦手なのだ。
「それじゃ、どうするんだ?」
「うーん・・・ 目的は父さんと母さんの事故の真相を知る事だから、俺自身がどうしても探偵や警察官になれない時は
 信頼できるそういう所に依頼するのもありかなって思ってる」
「・・・・・・」
 オレはしばらく黙っていたが、思い切って切りだした。
「KYO。――聞いてもいいか? その・・・お前のご両親の、事故のこと」
 こっちとしてはドキドキもので返事を待っていたのだが、KYOはあっさり
「いいよ」と答えて、話をしてくれた。
 事故があったのはKYOが三歳の時だったこと。
 ブレーキの故障したトラックにはねられて、両親が亡くなったこと。
 二人は日課だった朝の散歩に出かけた時にその事故に遭って、本当ならKYOも一緒に死んでいたかも知れないこと。
 母親がしていた筈のペンダントが、その後どうしても見つからないということ・・・。
 聞きながら頭の中がもやもやしてくる。何だかいろいろ妙な感じのする話だ。
「トラックのブレーキに、傷が付いてた?」
「そうなんだってさ。・・・だからかな、そのトラックの運転手は一度もうちに来た事がないんだ」
 オレは眉間に皺を寄せた。
「・・・って、そいつ、お前達遺族に謝りに来てないのか? 全然?」
「うん。――昼間考えてたのはその事なんだ。ビデオの加害者とはずいぶん違ったなぁと思ってさ。できる限り思い出して
 みたんだけど、そういう記憶が見つからなくて。葬式の時も、本人じゃなくて会社の人が代わりに来てたみたいだしね。
 ・・・事故はブレーキを切った奴のせいで、自分達も被害者なんだからって言ってたらしい」
「そんな馬鹿な! 事故が自分のせいでなくても、自分が運転しててひいちまったってのは事実だろっ!! だったら」
 大声を出したオレをKYOはなだめた。
「怒鳴るなよ、夜中なんだから。近所迷惑になるだろ。・・・でも、ありがとうな」
 低めた声で、静かに言う。
「俺達のために、怒ってくれて」
(・・・言うなよ。礼なんか)
 今頃こんな大事な話聞いて、怒るくらいしかできないオレに。こんな、今更。
 ・・・・・・今更?
(――いや)
 オレは目の前の相手を見直した。
 KYOはまだ諦めてない。なんとかして本当の事を知ろうとしてる。だったら。
 オレにだって、できる事はあるんじゃないか?
「なぁ、KYO。――それ、オレ達で調べてみないか」
「えっ?」
 KYOは目を丸くした。
「別に素人だって、ある程度当時の事を調べるのはできるだろ。探偵にしろ警察にしろ、入るのは卒業後だろうから
 まだ何年か掛かるし。その間ただ待ってるってのは時間がもったいないじゃないか。依頼するにしても手持ちの資料が
 多いほど手掛かりになるだろうし」
「・・・キンタ・・・」
「警察にもう一度事故の記録を見せてもらうとか、当時の事を知ってる人を探して話を聞くとかさ。十何年も経ってるから
 難しいかも知れないけど、情報が得られそうな所の目途を付けとくだけでも大分違うだろ?」
「そっか・・・ そうだよな」
 KYOの表情が明るくなる。
「今から始めたって構わないんだよな」
「そうだよ。っていうか、できるだけ早い方がいいんじゃないか? もうかなり時間が経ってるし、関係者の記憶も薄れる
 だろうし」
 オレは膝を伸ばして立ち上がった。
「よし。・・・お前は当事者だから、直接関係者から話が聞き出し易いだろう。そっちあたってみてくれないか。オレはもう少し
 外側からの情報収集ができないかやってみるよ」
「外側?」
「警察以外に事故の記録を持ってる所はないか探したりとか。あと、協力してくれそうな奴とか、有力な情報源に繋がりが
 ありそうな奴に声かけるとかな」
「・・・それは――」
 ためらっている表情のKYOに、オレはにやりと笑ってみせた。
「大丈夫だって。話してもいいって見極めたヤツにしか言わねぇよ。――下手にこういう話すると、受け止めきれなくて
 潰れたり、挙句の果てに妨害に回るようなのもいるからな。相手は慎重に選ぶって」
 真面目な顔で付け足す。
「信用しろよ。オレ結構、人を見る目はあるんだぜ?」
 そう言うと、KYOは笑った。
「うん、わかった。・・・頼むよ」
「ああ、任せとけって」
 せっかく恰好よくキメたのに、空っぽの腹が派手な音を立てたのでKYOが吹き出した。
 ――情けねー・・・。
「今、飯持って来るよ。待ってろ」
「・・・悪い」
 オレは赤くなって再び座り込んだ。

 数日後、また教習所の休み時間にI−ZUに会って、この話をしたら、やっぱり怒られた。
「お前っ、そんな事にも気付かないで恭介を誘ってたのか!?」
「・・・すまん」
「俺に謝ったって仕方ないだろー! ・・・ったく、途中で転校してきた俺よりずっと地元で一緒だったキンタの方が
 当然わかってるもんだと思ってたのに」
 ぶつぶつ文句を言うI−ZUに、オレは返す言葉がなかった。
「まぁ恭介はお人好しだからさー、それでも許しちゃうんだろうけどさ・・・」
「俺が何だって?」
 後ろから声をかけられて、オレ達はぎょっとして振り返った。
 外の練習コースから帰ってきたらしいKYOが、呆れたような顔をして立っていた。
「・・・二人とも、出入り口のど真ん中に立ってられると通行の邪魔になるんだけど」
 言われて、慌ててロビーの端に移動する。扉の外に溜まっていた実技帰りの連中が、こちらを見ながら通り過ぎて行った。
「恭介、こいつホントにちゃんと謝ったのか?」
 I−ZUがオレを指さして言う。
「うん。いつもと別人みたいだったよ」
「・・・そこまで言うか、KYO・・・」
「だってそうだったろ? あ、俺、次から路上教習」
「え、合格したんだ」
「マジかよ、やべェ! オレだけ遅れてるか!?」
 この間の不合格のせいだ。くそー・・・。
「頑張れよー、キンタ」
 後の二人が無責任な応援の声をおくってくれた。


 ――ここからは、ずっと後の話になる。

 数年後、祖父さんを看取って天涯孤独の身になったKYOは、「思い切って行ってみるよ」と言って憧れの名探偵がいると
いう遠羽市に単身引っ越して行った。
 ・・・その行動力には正直驚かされたし、寂しかったし、一人で行かせるのは心配でもあったが、あいつ自身が決めた事だ。
引き止める事はできなかった。
「こっちでも続けて調べるから、何かわかったらメールで知らせるからな」
 別れる間際、オレ達は口々にKYOに向かって声をかけた。
「そっちもこまめにメール寄越せよ」
「うん。ありがとう」
「そっちも何かあったらすぐ教えろよ」
「わかった。必ず報告するから」
「怪しい奴にやたら付いてっちゃ駄目だぞ?」
「・・・お前ら、俺を何だと・・・」
 お人好しの上に変な人や物事に遭いやすいから心配なんだ、とみんなから突っ込まれたKYOはちょっとへこんでいた。

 そして、それは向こうに行ってからも変わらなかったらしい。
 その上、依頼しに行った筈の当の探偵事務所に就職したとかで、KYOの関わる事件の深刻さは洒落にならなくなった。
その事であいつ自身も相当大変そうで、オレはメールを送るくらいしかできない自分の立場が歯がゆかった。 
 ・・・KYOの事を調べてる奴がいるらしい、と聞いたのはそんな頃だった。
(あいつ、何かヤバい事に巻き込まれてるのかな・・・)
 気になったオレは、会社の出張を利用して詳しい話を聞くためアキに会いに行った。
 その後、アキに声をかけたという人物を探していたら、逆に向こうから声をかけられたのだ。
「君、真神恭介君の友達? ちょっと話聞かせてくれないかなぁ。俺? 怪しいもんじゃないよ」 ・・・


                                                                    〔了〕

 取材協力:小田朋代様
        彩鈴様
        (取材順)
 


★コメント :恭ちゃんの過去ネタ、第2弾です。
        この話の作成に当たっては、小田様と彩鈴様のご両名にご協力いただきました。
        お二方、大変お待たせしてすみませんでした。今回の献辞は、お二人にということで。
        (突撃インタビューさせていただいてから、何ヶ月経ったんだろう・・・ 泣。)

        講習のカリキュラムについては、だいぶ各教習所ごとに特色があって、内容にもいろいろあるようです。
        今回問題の「交通事故の悲惨さを知らしめる」ための授業も、ある所とない所があったり、またドラマビデオも
        毎回必ずある(!)とか、教習所ではなかったけど免許更新の時に見たとか・・・
        なので、ここではこういう講習だったということで。

        キンタの一人称は、本編のメールによると「俺」ですが、それだとKYOもI−ZUも三人全部同じになってしまうので
        ここでは敢えてカタカナ表記の「オレ」に変えさせてもらいました。・・・話の都合上ということで、ご了承ください。

        時間的には本編の3,4年前を想定しています。
        また、地元の友人達といつ何処で出会ったかの詳細は、独自に(勝手ともいう。笑)設定させてもらいました。
        イメージ違った方、ごめんなさい。

        ていうか、キンタってホントはもっと性格はじけてるような・・・ 別人。すみません〜(笑)。
        

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